MA-T学会設立特別シンポジウムが開催されました

2022年11月15日、大阪大学薬学部4号館にてMA-T 学会設立特別シンポジウム「MA-Tが拓く地球の未来」が開催され、オンラインでも同時配信されました。

同年2月の学会設立を記念して行われたこのシンポジウムでは、2016年ノーベル生理学・医学賞を受賞された大隅 良典 先生(東京工業大学栄誉教授/MA-T学会名誉会員)の特別講演「基礎研究と応用研究の新しい連携のために」を皮切りに、続いて6名の演者から「さまざまなレベルでの酸化制御技術を用いて地球環境と人々の健康を守る」をテーマに、MA-Tの現状や今後の展望、研究成果を社会実装する取り組みなどについての発表が行われました。

エネルギー分野での展開

エネルギー分野では、大久保 敬 先生(大阪大学教授)から「エネルギー革命」と題して、脱炭素社会の実現に向けた取り組みが紹介されました。

大久保先生はMA-Tを光で活性化する「二酸化塩素光酸化反応」で得られる活性酸素と塩素ラジカルを用いて、メタンからメタノールとギ酸が生成できることを報告しています。MA-Tの技術を応用してメタンをメタノールに変換することで、エネルギー供給と地球温暖化対策の課題を同時に解決することが可能となります。

大阪大学と北海道興部(おこっぺ)町の連携のもとで設立されたOKPOUという施設では、乳牛のふん尿から産生されるバイオガスに含まれるメタンガスをエタノールに変換し、さらに副生成物であるギ酸も乳牛の飼料をつくるために活用するという「カーボンニュートラル循環型酪農システム」が稼働しています。

表面酸化分野・医療分野での展開

「表面酸化」と呼ばれる素材加工の分野では、まず淺原 時泰 先生(大阪大学准教授)から「マテリアルサイエンスのブレイクスルー」と題して、再生医療などで用いられる医用材料の表面改質についての発表がありました。

再生医療では、組織再生時に細胞増殖の土台として「細胞足場材料」と呼ばれるものが必要となります。そこで求められる性質には①生体適合性②生分解性③適切な機械強度④細胞接着性などがありますが、これらすべてを満たす材料の開発はまだ実現していません。

現在使われている材料の一つであるPLA(ポリ乳酸)には、疎水性で細胞接着性に乏しいという弱点がありますが、MA-Tを光で活性化する「二酸化塩素光酸化反応」で表面を加工することにより、PLAに欠けている細胞接着性を向上させられることがわかり、ほかにも医用材料への幅広い応用が期待されています。

続いて井上 豪 先生(大阪大学教授/MA-T 学会副会長)からは、「革新的構造解析技術の創出」と題して、生命科学分野でのイノベーションに大きな役割を果たしている「クライオ電子顕微鏡」への応用が紹介されました。

2017年にノーベル化学賞を受賞したクライオ電子顕微鏡の発見は、たんぱく質の構造解析による創薬研究に大きなインパクトを与えましたが、試料を作製する際の調整工程がボトルネックとなっていました。しかし、従来行っていた「プラズマ処理による親水化」という工程を、MA-Tによる酸化処理で大幅に効率化することが可能となり、高解像度化にもつながりました。

このことにより、新型コロナウイルスの変異体をクライオ電子顕微鏡で構造解析し、有効な抗体医薬品の開発を加速するといった成果も期待されます。

感染制御分野での展開

感染制御の分野では、阪井 丘芳 先生(大阪大学教授)から「地球規模での感染制御」と題して、「新型コロナウイルスと唾液腺」「医療・介護現場での救世主としてのMA-T」「感染症対策の実用例」をテーマとした発表がありました。

阪井先生のこれまでの研究から、唾液腺には新型コロナウイルスの受容体であるACE2が多く発現していることが明らかになり、そこでのウイルス増殖が感染拡大や重症化に大きく関わっていることが示唆されました。そこで、MA-Tのマウスウォッシュを使った口腔ケアによる感染抑制が注目されています。

さらに、医療・介護現場で望まれる口腔ケア専用ジェルの開発・製品化に携わった経緯や、臨床での経験を踏まえ、これまでの口腔ケア用品にはなかったMA-Tの多様なメリットについても報告がありました。新型コロナウイルス感染症だけでなく、口腔内のさまざまな感染症に有効であり、ほかの薬剤との相互作用といった問題が少ないこともMA-Tの大きな利点となっています。

また、発表の最後には、MA-Tによる感染症対策の実例として、オペラ公演やプロ野球球団での導入事例などが紹介されました。

医療・新薬開発分野への展開

新薬開発を中心とする医療分野における展開として、まず辻川 和丈 先生(大阪大学教授)から「医療の新戦略」と題して、がん治療薬への応用の可能性について発表がありました。

末期の口腔がんにおいては、自壊したがん組織から発せられる悪臭や、周辺組織の炎症改善にMA-Tが有効であることが知られていました。このことからがん治療薬への応用として、膀胱がんをターゲットとした研究が進められました。

悪性度は低いものの再発が多いとされる非浸潤性の表在性膀胱がんにおいて、BCGを膀胱内に注入する従来の治療法は副作用や再発率の点で課題がありました。そこで、まず膀胱がんの細胞にMA-Tを添加したところ、がん細胞の増殖を抑制することが確かめられました。

そのメカニズムとしては、がん細胞のアポトーシス(細胞死)を誘導していることが考えられており、実際に膀胱がんを発生させたマウスを使い、膀胱内にMA-Tを投与する実験でも、このことを裏付ける結果が得られています。

そして、抗がん剤開発を行っている株式会社HOIST 柿沼 千早 代表取締役からは、「新技術の社会実装」と題して、辻川先生の発表を引き継ぐ形で、現在進行中の膀胱がん治療薬の開発や治験に向けての取り組みが報告されました。

MA-T学会に期待されること

大隅先生の特別講演においても、MA-T学会に期待することとして、MA-Tが持つ多様な可能性から、今までの産学共同研究の枠組みを超えるような広がりを持つ活動ができるのではないか、と述べられていました。また、社会実装にあたってのさまざまな課題を乗り越えていくためにも、MA-T学会の取り組みが今後ますます重要になっていくと思われます。

アースヘルスケア株式会社では、これからもMA-T技術に関するさまざまな情報をタイムリーにお届けしてまいります。